特殊清掃用洗剤と消臭剤の選び方
血液除去と死臭を消すプロの薬剤
孤独死や事故現場の原状回復において、最も大きな壁となるのが「強烈な死臭」と「固着した血液・体液」の除去です。市販の洗剤では太刀打ちできないこれらの汚れには、プロが使用する専用の薬剤が欠かせません。
この記事では、特殊清掃の現場で実際に使われている洗剤や消臭剤の種類、具体的な掃除の手順、そして安全に作業するためのポイントを詳しく解説します。
特殊清掃に不可欠な洗剤と消臭剤の役割
特殊清掃では、目に見える汚染を物理的に除去する「洗剤」と、空間に漂う臭い分子を化学的に分解する「消臭剤」の使い分けが重要です。
血液や体液を分解するタンパク質分解洗剤
血液や体液は、時間が経つと固まって強固な汚れへと変化します。これらを効率よく落とすために必要なのがタンパク質分解洗剤です。
血液の主成分であるタンパク質は、一般的な洗剤では十分に分解できません。プロ仕様の洗剤は、酵素やアルカリ剤の力でタンパク質を分子レベルで分解し、床や壁にこびりついた汚れを浮き上がらせます。特に、血液が乾燥して黒ずんでいる場合は、浸透力の高い専用薬剤を使用することで、素材を傷めずに清掃することが可能になります。
腐敗臭が染み付いた壁紙と建材
腐敗臭は気体として部屋中に充満します。
特に壁紙(クロス)やその下の石膏ボードは、微細な穴が開いているため匂い分子を吸着しやすい性質があります。
壁紙の裏側
表面を消臭しても、裏側に染み込んだ匂いがじわじわと漏れ出してきます。
断熱材
壁の内部にある断熱材まで匂いが移ると、建物全体に悪臭が定着してしまいます。
死臭を根本から消し去る強力な消臭剤
死臭(腐敗臭)は、遺体の腐敗過程で発生するアンモニアや硫化水素などが混ざり合った複雑な臭いです。この臭いを消すには、香りでごまかす「マスキング」ではなく、臭いの元を断つ消臭剤が必要になります。
特殊清掃用の消臭剤は、臭い分子そのものを酸化・分解する性質を持っています。壁紙や建材の奥まで染み込んだ臭いに対しても、微細な粒子となって浸透し、無臭化する高い能力が求められます。
床に付着した血液や汚れを掃除する手順
床の清掃は、汚染箇所を広げないように外側から中心に向かって作業し、適切な薬剤で除菌・洗浄を行うのが基本です。
フローリングの血液除去と洗浄方法
フローリングは板の隙間に血液が入り込みやすいため、迅速かつ丁寧な作業が求められます。
表面の拭き取り
- まずはペーパータオルなどで、表面に付着している血液を吸い取ります。この際、汚れを広げないよう、外側から内側へ向かって拭き取ってください。
専用洗剤の塗布
- タンパク質分解洗剤を汚染箇所に直接スプレーし、数分間放置して汚れを浮かせます。
ブラッシングと回収
- 汚れが浮いてきたら、柔らかいブラシで隙間の汚れを掻き出し、再度拭き取ります。
除菌仕上げ
- 最後に、次亜塩素酸ナトリウムなどで除菌を行い、乾燥させます。
クッションフロアや畳の汚染箇所への対応
クッションフロアや畳は、素材の内部まで体液が浸透しているケースが多く、表面だけの清掃では不十分な場合があります。
クッションフロアの場合
裏面の地組織まで体液が染み込んでいることが多いため、汚れがひどい場合は部分的に切り取るか、全面張り替えを検討する必要があります。表面のみの清掃で済む場合は、フローリングと同様の手順で洗浄します。
畳の場合
畳は液体を吸収しやすいため、血液が染み込んだ場合は清掃による原状回復はほぼ不可能です。汚染された畳は速やかに撤去し、床板(コンパネ)まで汚染が及んでいないかを確認してください。
感染症を防ぐための防護具と安全対策
特殊清掃の現場には、血液や体液を介した感染症リスクが常に潜んでいます。自分自身の身を守るため、以下の防護具を必ず着用してください。
防護服
使い捨ての全身防護服を着用し、皮膚の露出をゼロにします。
防護マスク
ウイルスや臭いを通さない「N95」規格以上のマスクが推奨されます。
手袋・ゴーグル
厚手のゴム手袋を二重に装着し、血液の飛散から目を守るゴーグルも必須です。
プロが推奨する強力な特殊清掃用薬剤
現場の状況に応じて、安定化二酸化塩素や次亜塩素酸、バイオ系薬剤を使い分けることで、効率的に消臭・除菌が可能です。
安定化二酸化塩素による空間消臭
安定化二酸化塩素とは、非常に強力な酸化作用を持つ物質で、特殊清掃の現場で最も信頼されている消臭成分の一つです。
この薬剤は、空気中に漂う腐敗臭の分子を酸化させて破壊します。また、除菌力も極めて高く、ウイルスや細菌の不活化にも効果を発揮します。噴霧器(フォグマスターなど)を使用して空間全体に散布することで、手の届かない隙間の臭いまで除去できるのが大きなメリットです。
次亜塩素酸系薬剤による除菌と漂白
次亜塩素酸系の薬剤は、主に血液の除菌と、血液によるシミの漂白に使用されます。
血液に含まれる病原体を死滅させる力が強く、清掃の初期段階での消毒に欠かせません。ただし、金属を腐食させたり、布製品を脱色させたりする性質があるため、使用する場所には注意が必要です。また、酸性タイプの洗剤と混ぜると有害なガスが発生するため、取り扱いには細心の注意を払ってください。
腐敗臭を中和するバイオ系消臭剤
バイオ系消臭剤は、微生物(バクテリア)の力を利用して、臭いの原因となる有機物を分解する薬剤です。
化学薬品のような即効性は劣るものの、素材に染み込んだ有機物をじっくりと分解し続けるため、時間が経ってから戻ってくる「戻り臭」の防止に効果的です。特に、床下のコンクリート部分など、水洗いが難しい場所の消臭に適しています。
特殊清掃用の洗剤と消臭剤の購入方法
プロ仕様の薬剤は、専門のオンラインショップや資材販売店で購入でき、成分や用途を事前にチェックすることが重要です。
専門のオンラインショップと販売店
特殊清掃用の強力な薬剤は、一般的なドラッグストアやホームセンターではほとんど取り扱われていません。主に以下のルートで購入することになります。
特殊清掃用品の専門通販サイト
「カイユウ商事」や「モノタロウ」などのサイトでは、プロが使用する消臭剤やタンパク質分解洗剤が販売されています。
清掃資材の卸売店
地域の清掃用品販売店でも取り寄せが可能な場合があります。
Amazonや楽天の業務用コーナー
一部の強力な消臭剤(例:バイオチャレンジ、二酸化塩素製剤など)は、大手ECサイトでも「業務用」として出品されています。
プロ仕様の薬剤を選ぶ際のチェックリスト
購入時には、以下のポイントを確認して、現場の状況に合ったものを選びましょう。
用途が明記されているか
「血液用」「腐敗臭用」など、目的に合致しているかを確認してください。
成分の濃度
市販品よりも有効成分が高濃度で配合されているものを選びます。
安全性と腐食性
使用する場所(フローリング、金属、布など)を傷めないか確認が必要です。
希釈倍率
原液で使用するのか、薄めて使用するのかによってコストパフォーマンスが変わります。
現場の状況に合わせた薬剤の使い分け
孤独死や事故現場では、腐敗の進行度合いや汚染範囲に合わせて、消臭剤の散布量や洗浄の回数を調整する必要があります。
孤独死や事故現場での消臭剤の散布量
消臭剤の効果を最大限に引き出すには、適切な量を使用することが不可欠です。
一般的な目安として、空間消臭を行う場合は1平米あたり約50ml〜100ml程度の消臭液を散布します。ただし、死後数週間が経過している現場や、夏場の現場では、臭いの強さに応じて散布量を2倍〜3倍に増やす必要があります。一度に大量に撒くよりも、清掃の各工程(汚染物除去後、洗浄後、仕上げ)で段階的に散布するのがコツです。
染み付いた血の匂いと腐敗臭の消し方
「掃除をしたのに血の匂いが消えない」という場合は、目に見えない場所に汚れが残っているサインです。
臭いの元を特定する
鼻を床や壁に近づけ、臭いが強い場所を特定します。幅木(はばき)の裏や、フローリングの継ぎ目に血液が入り込んでいることがよくあります。
繰り返し洗浄と中和
一度の洗浄で臭いが消えない場合は、タンパク質分解洗剤での洗浄を繰り返し行います。その後、安定化二酸化塩素を染み込ませるように塗布し、時間をかけて反応させてください。
最終手段としてのコーティング
どうしても臭いが消えない場合は、特殊な防臭塗料で汚染箇所を封じ込める「コーティング処理」を行うことも検討してください。
まとめ
特殊清掃における洗剤と消臭剤の選択は、作業の成否を分ける極めて重要な要素です。
- 血液や体液にはタンパク質分解洗剤を使用する
- 死臭の除去には安定化二酸化塩素などの強力な消臭剤を選ぶ
- 作業時は必ず防護具を着用し、感染症対策を徹底する
これらのポイントを押さえることで、困難な現場でも着実に原状回復へと近づけることができます。もし、自分たちだけでの対処が難しいと感じた場合は、無理をせず専門の特殊清掃業者へ相談することも大切な選択肢の一つです。
この記事を書いた人
森 大輔
2004年より特殊清掃・災害復旧専門会社 ダスメルクリーンを運営
IICRCの国際資格取得や特許消臭技術ヒドロ工法を考案
災害復旧の専門集団『日本レスレーション協会』理事
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現場調査により臭いの原因物質やカビ・細菌の発生源を特定し、専用薬剤・専用機材を使用して根本から除去する作業を行っています。
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